インド・ガネーシャ通信(1)  マカイバリ紅茶との出会い

 1995年春のことでした。30数年勤めた商社を早期退職した直後に、あるインド人から「ダージリンの有機栽培紅茶を日本に輸出してくれないか」と頼まれた時、正直言ってあまり気乗りしませんでした。商社で担当していた鉄鋼原料、エネルギーとまったく畑が違いますし、紅茶ビジネスは扱う額の桁が3つぐらい違っているからです。しかし、商社マンとして2度にわたり計8年半、ニューデリーにいて、「インドは紅茶の大産出国なのに、そこで飲む紅茶は日本で飲む紅茶とほとんど同じでうまくない」と、出張者からたびたび文句を言われていました。その疑問もあって、しぶしぶダージリンに行く破目となりました。

 現地で茶園主のS・K・バナージー氏(マハラジャの末裔とかで、通称ラジャ)に紹介され、話し合っているうち、不思議にも何か琴線に触れるものがあり、紅茶への先入観が一変しました。初めて飲んだマカイバリ紅茶は格別で、いまだにその芳醇な香りを忘れることができません。”目から鱗が落ちた”のです。

 それ以来、すっかりマカイバリ紅茶に魅せられ、この紅茶を日本の紅茶ファン、紅茶を理解される方だけにでも飲んでいただこうと腐心することになりました。家内と行動を開始し、その結果設立したのが「マカイバリ・ジャパン」です。ラジャも全面支援してくれ、日本国内の総代理権を得ました。マカイバリ紅茶を空輸で産地直送し、コストダウンをはかって通信販売を行うなど、みなさんのお手元に本物の紅茶をお届けしたいと思っています。

 ラジャの紅茶作り理解するため、彼の信奉するドイツの思想家、R・シュタイナー(日本では教育論者として有名)、福岡正信先生(「わら一本の革命」著者)の著作も読み、ますますラジャの紅茶生産に対する真摯な考え、態度に感銘しました。シュタイナーの唱えるバイオ・ダイナミック農法に基づくマカイバリ紅茶は完全有機栽培で、93年に紅茶園としては世界で初めて有機栽培証明機関ディメーター社からの有機証明を得ています。

 現在世界の紅茶生産量は年間約250万トンで、インドが3分の1の85万トンとなっています。うち大半の65万トンをアッサム産が占め、ダージリン産はわずか年産1万トン以下。10年前の1万7000トンから激減し、特に昨年は30年来の大旱魃のため8000トンに落ち込みました。生産量が減産傾向にあるのは、人口肥料、農薬の影響で土地がやせ衰えているからで、5年以内に5000トンにまで落ちるという説があるほどです。

 ところが現在世界で販売されている「ダージリン紅茶」は実際の輸出量の10倍以上に上っています。にせダージリンの氾濫に業を煮やしたダージリン茶園主協会は3月30日の通達で、真のダージリン紅茶にはCTM(Certification Trade Mark ダージリン産紅茶取引証明証)ラベルを付けるよう義務付けました。アッサム、スリランカ産などとのブレンド紅茶にはCTMラベルを付けてはならず、違反すると罰則が適用されます。CTMラベルを確認して、安心してダージリン紅茶をお飲みいただけるわけです。

 さて、純粋なダージリン紅茶はミルク、砂糖など何も入れずに芳醇な香りを楽しみながら飲むものではないでしょうか。嗜好品ですので人それぞれ好みがあるのは事実です。しかし、英国王室は何も加えないストレートのダージリン有機栽培紅茶を飲んでおられると聞きます。ラジャは言います。「日本では抹茶、玉露に砂糖入れて飲みますか? ボジョレーのワインに何か入れて飲みますか?」まさに至言です。

(By 石井  吉浩)

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