紅茶 オーガニック
インド オーガニック アッサム
文:石井博子
   マカイバリジャパン
マカイバリ茶園
マカイバリ茶園の入り口の門で、一匹の犬が座っていました。
名前は、ブルーノ。
悲しげな目で私を見つめ、ずっと視線を逸らしません。
「ナマステ。どうしたの?」
そう声をかけて近づいても、その目は私を見つめたまま。
その瞳には、涙が浮かんでいるように見えました。
「どうしたのっ!!!」
そこから、ブルーノの物語は始まりました。
偶然の出会い
その日は、霧に包まれた茶畑で撮影をしていました。雨と霧で洋服がびっしょりと濡れてしまったため、一度ホテルへ戻って着替えを済ませ、予定より30分ほど早く製茶工場へ向かいました。その途中で出会ったのが、ブルーノでした。ブルーノは、マカイバリ茶園のコミュニティードッグ。決まった飼い主がいるわけではありませんが、ご飯を与えてくれる人がいて、茶園の人々に見守られながら、普段は自由に茶園の中で暮らしています。周りの人たちに話を聞いてみると、ブルーノは約2週間前にバイクにはねられていたことがわかりました。それから十分な治療を受けることができないまま、腫れ上がった脚を引きずりながら毎日を過ごしていたそうです。そこへ、予定より少し早く工場へ向かっていた私が、ひょっこり現れました。

マカイバリ茶園
マカイバリ茶園
傷を負ったブルーノ。
その日の夜、治療が始まった
ブルーノの状態を見て、そのままにはしておけませんでした。その日の夜には、カーシオンから獣医さんが往診に来てくれました。さらに電話をつなぎ、軍の獣医さんにも状態を説明し、セカンドオピニオンを受けました。

そして翌日。ブルーノは生まれて初めて車に乗り、マカイバリの山を下り、シリグリの街へ向かいました。マカイバリの涼しい山の上とは違い、下界のシリグリは蒸し暑い。おそらく"犬生"で初めて見る、天井の大きな扇風機。その風を気持ち良さそうに浴びながら、ブルーノは目を細めていました。

マカイバリ茶園マカイバリ茶園
車に乗るブルーノと普段から世話をしているプニマ(写真左)。 扇風機の風を浴びるブルーノ。
シリグリの「野戦病院」
Googleの口コミだけを頼りに選んだクリニックは、薬局の前の敷地にトタン屋根を付けた、小さな診療所でした。まるで野戦病院のような場所です。しかも数軒先には、エアコンの効いた、きれいな動物病院もあります。ブルーノと、普段から彼のお世話をしているプニマは、私を信頼してここまで来てくれました。だからこそ、「絶対に判断を間違えるわけにはいかない。」そんな気持ちでした。ところが、私の不安とは裏腹に、診療所には次から次へと犬や猫を連れた人たちがやって来ます。そして先生が現れました。その姿を見た瞬間、「あ、大丈夫かもしれない。」なぜか、そう思いました。直感でした。

マカイバリ茶園
トタン屋根の小さな診療所。
ようやくわかったブルーノの状態
そこからは早いものでした。近くのクリニックでレントゲンを撮り、血液検査も行いました。結果は、足先の骨に小さなヒビが入っているものの、大きな骨折はありませんでした。そして何より心配していた感染も、幸い骨の直前で止まっていました。最初に傷口を見たとき、私は「骨が見えている」と思っていました。しかし、その白いものは骨ではありませんでした。傷口の中に残されていた、ガーゼだったのです。傷口は丁寧に洗浄・消毒され、抗生剤と痛み止めの注射が処方されました。脚には添え木も装着されました。バイクにはねられてから約2週間。ブルーノはようやく、回復への第一歩を踏み出しました。

マカイバリ茶園マカイバリ茶園
レントゲン撮影。 治療を受けるブルーノ。
それにしても、ブルーノはクールガイ
片道1時間半の山道。診療所の目の前をひっきりなしに通る車。鳴り響くクラクション。ブルーノは、そんなものをまったく気にしません。怖がるどころか、初めての大都会へのお出かけを楽しんでいるようにも見えました。治療中も落ち着いていて、本当に堂々としたものです。ブルーノは、本当にクールガイ。

マカイバリ茶園マカイバリ茶園
落ち着いた表情のブルーノ。
マカイバリ茶園マカイバリ茶園
先生に褒められるブルーノ。 プニマとブルーノ。
茶園で続く治療
今度は、茶園のみんなで抗生剤と痛み止めの注射を、5日間続ける必要がありました。さて、誰にお願いしよう。そこで思い浮かんだのが、マカイバリ茶園で看護師として働くミーラでした。ミーラは、茶園で暮らす人々の健康を支えながら、フェアトレードの活動にも携わっています。初回は獣医さんに方法を確認し、その後の治療を茶園で続けてもらうことになりました。

獣医さん。軍の獣医さん。ブルーノを普段から見守っているプニマ。看護師のミーラ。そして茶園の人たち。こうしてブルーノは、マカイバリのみんなに見守られながら、少しずつ回復へ向かっています。

マカイバリ茶園マカイバリ茶園
看護師のミーラ(写真右)。 夜の治療。
ブルーノは強運の持ち主
それにしても、ブルーノは本当に強運の持ち主だと思います。約15日間、十分な治療を受けることができなかったにもかかわらず、感染は骨まで達していませんでした。雨と霧で茶園の撮影が中断し、予定より30分早く製茶工場へ向かった私と偶然出会ったこと。プニマが迷うことなく、ブルーノを連れてシリグリまで一緒に来てくれたこと。地域の獣医さんと、軍の獣医さんに診てもらえたこと。そして茶園には、その後の治療を手伝ってくれる看護師のミーラがいたこと。いくつもの偶然と、人のつながりが重なりました。

たった2日で、ブルーノの"犬生"は大きく動き始めたのです。

マカイバリ茶園
だいぶ元気になったブルーノ。
人、自然、動物がともに生きる茶園
マカイバリ茶園では、広大な敷地の多くを原生林として残しています。その森には鳥や虫、さまざまな野生動物が暮らし、茶園では人々が生活し、ブルーノのようなコミュニティードッグも一緒に暮らしています。マカイバリが長年大切にしてきたのは、「人」「自然」「動物」が、幸せに共存共生すること。それは紅茶づくりだけのための考え方ではありません。この土地で暮らす命すべてにつながっているのだと、ブルーノとの出会いを通して、あらためて感じました。ブルーノの物語は、まだ始まったばかりです。

これからも、彼が元気になっていく姿をお伝えしていきたいと思います。
マカイバリ茶園
2026年8月26日のブルーノ。走れるようになりました。


マカイバリ 紅茶
Copyright (C) 2026 Makaibari Japan Ltd. All Rights Reserved.