GQ JAPAN
2003年9月号p.173

世界一高い紅茶を作る男が、なんと玉露に挑戦。

GQ JAPAN 2003.September
Text:Chieko Fujita, Photo:Marie Furukawa, Takashi Uehara(PPI)

 米国紅茶マスターズ協会で過去最高値。そう枕詞のつく紅茶ファン注視のダージリンティーが、インド・ダージリン地区のマカイバリ紅茶である。澄みきった清涼感と深い余韻を持つこの紅茶が、ほかの高級紅茶と一線を画するのは、ひとえに、その栽培方法による。広大な敷地内に原生林と7つの村を持つマカイバリ茶園で実践されるのは、バイオダイナミック農法。これは、シュタイナー哲学の影響を大きく受けた完全自然調和農法で、太陽、水、空気、土、動植物すべての自然が互いに関連・調和しあった環境の中で行われる無農薬有機農法だ。

 そのマカイバリ茶園の主・S・K・バナジー氏(56歳)がこのほど来日、京都、静岡と日本の茶園を精力的にみて廻った。マハラジャ、京田辺に現る。その目的は、玉露造りの研修のためだ。

 紅茶造りに関しては33年のキャリアを持つバナジー氏が、「ぜひ、グルー(尊師)に学びたい」と教えを乞うたのは、手もみ玉露名人・山下寿一氏(69歳)。山下氏は、玉露名人日本一の栄冠に輝くこと23回、という稀代の天才職人。紅茶造りを通じて茶葉の心を知るバナジー氏の熱意に応え、連続6時間半にわたって、玉露造りの製法を伝授したという。技術のみならず、山下氏の誠実さ、純粋さに物言えぬほどの感動を覚えたというバナジー氏は、今後、ダージリンでの玉露造りに並々ならぬ熱意を持って取り組むとのことだ。
 
  「今、世界的に緑茶人気が高まっているが、一方で完全オーガニック玉露は、いまだ存在しない。このことが、ダージリン地方で私が取り組む玉露のマーケットの可能性を示唆している。

  まさにダージリン紅茶のような、フレッシュで力強く、新しい芳香を持つ玉露。アメリカ、そして日本。寿司のマーケットがこんなに拡大している今、私の造る玉露マーケットにも可能性が広がっている。そう思いませんか?」

思いますとも、思いますとも!

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